小説「サークル○サークル」01-281. 「加速」

 芸能人は大変だな、とシンゴは思った。一夜限りのお遊びも浮気も、全て電波を使って、全国に流されてしまうのだ。普通だったら、せいぜい、パートナーとその両親くらいにしか責められないのに、見ず知らずの人間にまで叩かれる。有名税と言ってしまえばそれまでだけれど、叩いている人間がその芸能人を応援していたとは考えにくい。そうなると、叩かれ損だ。
 自分とアスカの場合はどうだろう……とシンゴは思った。
 果たして、アスカを責めるだろうか。責めるだけの熱量を自分が持っているとは、シンゴには到底思えなかった。事実確認をして、腹が立っていることを冷静に伝え、その後、離婚の手続きについて話をするだろう。
 浮気相手の男は一流企業に勤めているようだし、慰謝料請求をしてもしっかり払ってもらえそうだな、とそこまで考えて、苦笑する。
 自分が欲しいのはお金なんかじゃないはずだ。シンゴだって、真面目に仕事をすれば、食べていけないわけではない。僅かばかりの印税だって、数か月に一度振り込まれている。

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