小説「サークル○サークル」01-280. 「加速」

 余計なことを考えたくなかったからだろうか。気が付けば、シンゴは数十枚の原稿を書き上げていた。
 コーヒーでも飲もうと書斎を出ると、すでにアスカの姿はなかった。シンゴは溜め息をつく。それは安堵からくるものなのか、落胆からくるものなのか、よくわからなかった。
 シンゴはキッチンに向かう途中、ふいにダイニングテーブルの上に置いてある紙が目に入った。なんとはなしにそれを手に取る。それはアスカからの置手紙だった。
 そこには整った字で“仕事に行ってきます。今日は夜、事務所に寄って帰宅しないかもしれないので、心配しないで下さい”と書かれてあった。
 事務所に寄る? とシンゴは眉間に皺を寄せた。ターゲットとの密会の間違いではないだろうか。そんなことを考えて、シンゴはふっと自嘲した。
 電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。湯を沸かし始める音が聞こえた。
 ソファに座り、テレビを点けると、見慣れたワイドショーが芸能人のゴシップを伝えているところだった。

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