小説「サークル○サークル」01-282. 「加速」

 ただ相手の男がなんのペナルティもなしに生活を続けていくことが我慢ならなかったのだ。復讐と言っても過言ではない。そういった気持ちがシンゴの中に沸々と芽生え始めていた。
 電気ケトルが湯を沸かし終えたことを知らせると、シンゴはドリップコーヒーを淹れる。全てのお湯がマグカップに落ちると、マグカップを持って、再び、ソファに腰を下ろした。
 ワイドショーはまだゴシップを流している。
 表示されている時間に目を遣り、シンゴはケータイを取り出した。
 ユウキのアドレスに待ち合わせ時間を送ると、コーヒーに口をつけた。
 程よい苦さを伴って、コーヒーはシンゴの喉をゆっくりと流れていく。
 今日が勝負だ、とシンゴは思った。
 今日、動かぬ証拠を捕まえて、アスカに話をするつもりだった。そうして、このもやもやした日々にピリオドを打とうと考えていた。
 いつかはアスカが帰って来てくれる。そう思ってはいたけれど、今日のアスカの涙を浮かべたあの言葉で、揺らいでいたシンゴの気持ちは確かなものへとなってしまった。
 壊れたものは二度と元には戻らない。
 そうシンゴは確信していた。

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