小説「サークル○サークル」01-217. 「加速」

アスカはシンゴの異変に気が付いていた。
シンゴは単純な男だ。どんなこともすぐに態度に出る。そして、アスカはそれをいつも見ない振りをしてきた。今回、シンゴが何について、引っ掛かりを覚えているのかはわからなかったが、もしかしたら、自分とターゲットとの仲を疑っているのではないか、と考えていた。
確かに一時期、ヒサシに心を奪われていたのは事実だ。勿論、今だって、会ってしまえば、その気持ちは加速する一方だろう。だからこそ、アスカはなるべく接触しないようにしているのだ。
シンゴとの結婚生活を台無しにはしたくないと思っていた。
それは自分の気持ちと逆行する行為のような気もしたが、それが結婚している、ということだと彼女は考えていた。
「僕がやるよ」
食べ終えた食器を片付けようとアスカにシンゴが言った。
「ううん、このくらい自分でするわ。シンゴは仕事頑張って」
アスカは笑顔で言うけれど、シンゴは「ありがとう」と俯き加減に答えた。

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