小説「サークル○サークル」01-180. 「加速」

 洗面所からリビングへ戻ると、アスカがテーブルに食事を並べていた。今日はクリームシチューだった。
「ちょうど今出来たところよ。座ってて」
 アスカは手際よく、食卓にサラダやパンを並べる。シンゴは席に着くと、甲斐甲斐しく働く妻の姿をまじまじと見た。
「これで全部揃ったわね」
 テーブルに並べられた料理を見て、アスカは小さく頷くと、椅子に座った。
「食べましょうか」
 アスカに笑顔で言われ、「ああ」とシンゴは答えた。
「いただきます」
 二人で声を揃えて言うと、アスカとシンゴは食事に手をつけた。
「そうそう、このパン、今日ジムの帰りにパン屋さんで買って来たの。すごく美味しいって有名みたい。雑誌でも取り上げられたことがあるんですって」
 アスカは嬉しそうにパンの説明をする。
「へぇ、そんなパン屋があの辺にあるなんて知らなかったなぁ」
 シンゴは言いながら、パンに手を伸ばした。
 一口サイズにちぎり、ぽんっと口に放り込む。ふんわりとした食感とパンの甘味が口いっぱいに広がった。
「有名店だけあるね。美味しいよ」
「良かったぁ」
 アスカは柔らかな笑顔で応えた。こんな笑顔をずっと見ていたいとシンゴは心の底から思った。何気ない日常にこそ、幸せはあるのだな、とシンゴは痛感していた。

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