小説「サークル○サークル」01-179. 「加速」

「もうすぐ出来るから、顔でも洗ってきたら? なんだか眠そう」
 アスカは鍋から目を離すと、シンゴの顔を見て言う。
「……うん、そうだね」
 シンゴはソファから立ち上がると、アスカに言われた通り、洗面所へと向かった。
 冷たい水で頬が濡れる。じゃぶじゃぶと顔を洗うと、フェイスタオルで水を拭った。冷たさから解放されて、なんだかほっとする。そのまま、シンゴは顔を上げた。
 洗面台の鏡に映る自分を見て、思わず溜め息をつく。ちっとも冴えない顔をしていたからだ。
 こんな冴えない自分とアスカが釣り合うわけなんてない、とシンゴは思う。けれど、一度はそんな自分でも好きになってもらえたのだから、たとえアスカの気持ちがターゲットに移ろっても、もう一度好きになってもらうことは出来るはずだ、とも思う。
 しかし、一度こぼれた水が元に戻らないように、一度壊れた夫婦関係が元に戻ることはないようにも思えた。
 堂々巡りの想いに、シンゴはどう向き合っていいのか、次第にわからなくなりつつあった。

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