小説「サークル○サークル」01-109. 「加速」

「別れさせ屋の女所長の元に一人の依頼者がやってくる。その依頼者の夫は浮気をしているから、別れさせてほしいというのが、依頼内容だった。いつもの仕事内容と然して変わらないことに安心しつつ、女所長は依頼を受けた。けれど、業務を遂行していくうちに女所長はどんどんターゲットである依頼者の夫に好意を持っていって――っていう話だよ」
「それ、続きが気になります! でも……」
「でも?」
 ユウキは少し戸惑ったように言葉を続けた。
「今までの作風と雰囲気違いますよね」
「そうかな……」
 言われて、シンゴはでっち上げたストーリーだから、仕方ないな、と思った。
「いつ頃、発売なんですか?」
「それはまだ決まってないんだ」
 書きもしていない小説の発売日など決まっているわけもなかった。シンゴは目の前にいる青年のキラキラした目を見て、ほんの少し罪悪感を抱いた。目の前の読者は自分の作品が読める日を楽しみにしている。けれど、小説など書いてはいなかったし、でっちあげたストーリーは自分の身近に起きている事実だった。これがもし事実だと知ったら、目の前
青年はきっとがっかりするに違いない。自分のしてしまったことに、シンゴはなんだかいたたまれない気持ちになっていた。
「発売日決まったら、教えて下さいね!」
 そう言って、ユウキは無邪気に笑った。その笑顔がユウキと別れた後もシンゴの心の中に随分と長い間、留まっていた。

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