小説「サークル○サークル」01-108. 「加速」

「別れさせ屋の女の話を書いているんだ」
 咄嗟に出た言葉に、シンゴ自身も驚いた。それは紛れもなく、自分の妻のことだった。別れさせ屋という職業についてならば、いくらだって、いろんな説明が出来る。シンゴが自分の仕事以外で最も――編集者という一番身近な仕事関係者を除いてという意味だが、知っている職業だったからだ。
「別れさせ屋ですか?」
「そう。少し変わった主人公だろう?」
「そうですね。そんな小説は今まで読んだことがありません」
「探偵と少し迷ったんだけど、別れさせ屋は別れさせることに特化している分、面白いかなって思ったんだ」
「ってことは、恋愛小説ですか?」
「恋愛小説……になるのかな……。いまいち、僕はジャンルに疎くってね」
「どんな話なんですか?」
「どんな話か……」
「言える範囲内でいいので、教えて下さい!」
 ユウキにせがまれて、シンゴは腕を組み、しばし考え込む。それはいくらかポーズを含んでいた。すでにシンゴは話す内容を決めていた。決めていたというよりは、それしかなかったといった方が正しかった。

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