小説「サークル○サークル」01-87. 「動揺」

「はい、お味噌汁とご飯。何もせずにすぐ座っちゃったんだね」
 シンゴはアスカの向かいの席に腰を下ろした。
「うん……」
「アスカが面倒くさがりなのはいつものことだけど……。今日は何かあった?」
「えっ……」
「顔に書いてある」
「何もないけど……」
「話したくないなら別にいいけど、僕にはお見通しだよ」
「嘘ばっかり」
「嘘なもんか。一体、何年夫婦をやっていると思ってるんだよ」
 シンゴのセリフにアスカは言葉に詰まった。本当にこの人は自分を見透かしているのかもしれない、と思ったのだ。アスカはシンゴをまじまじと見据えた。相手は作家だ。小説は人を書くことだ、と昔シンゴから聞いたことがある。それだけ、沢山の人を観察し、感情の機微を感じ取るとも言っていた。「だったら、あなたの方がこの仕事に向いてるかもしれないわね」とアスカが言うと、シンゴは「いつでも力を貸すよ」と笑いながらアスカに言ってくれた。そんな随分と昔のことを彼女は思い出していた。あの頃は本当に幸せだったとも思った。

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