小説「サークル○サークル」01-88. 「動揺」

「本当に何もないのよ」
「そうか」
 腑に落ちないといった表情でシンゴはアスカを見ている。けれど、アスカは意に介する風もなく、西京焼きに箸を伸ばした。
「おいしい」
 西京焼きを口に入れ、アスカは言った。正直、緊張の所為か味はよくわからなかった。けれど、シンゴの料理がまずかったことなど一度もないのだから、この西京焼きも美味しいに違いない、とアスカは思って口にした。
「良かった」
 シンゴはほっとしたように言う。
「シンゴの作る料理でまずかったものは今まで何もないわ」
「僕の取柄は料理が上手いことくらいだからね」
「そんなことない。他の家事だって、完璧だわ。私がするより、よっぽど丁寧よ」
「それは君より時間があるからさ」
 自嘲気味に言ったりしないところを見ると、シンゴは心の底からそう思っているようだった。
「違うわ。元々の性格よ。私は大雑把だけど、あなたは几帳面」
「結婚した頃、よく君はO型で、僕はA型だから仕方ないって話をしたね」
「そうね、若い頃はそんな話もよくしたわ」
「懐かしいな」
 シンゴは目を細めた。きっと昔のことを思い出しているのだろう。アスカはそんな夫を見て、なんだか嬉しくなった。
「どうしたんだよ」
「えっ?」
「ニヤニヤしてるから」
「そんなことないわよ」
 アスカは慌てて否定すると、西京焼きをもう一度口の中に放りこんだ。

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