小説「サークル○サークル」01-85. 「動揺」

 しばらくして、会計の為にアスカはヒサシに呼ばれた。いつも通りの手順で会計を済ませ、ヒサシはバーを出て行こうとする。思わず、視線で追っている自分にアスカは苦笑した。十分過ぎる程、アスカはヒサシに心を掻き乱されているのだ。
 ヒサシはドアの前で一度立ち止まり、アスカの方を見た。アスカは慌てて、視線をそらす。ヒサシは何も言わずに、バーを出て行った。寂しげにドアベルが鳴った。

 家に着くと、アスカは玄関の電気を点けた。シンゴは寝ているのだろう。部屋の灯りは全て消されており、玄関より先は真っ暗だった。アスカは靴を脱ぎ終えると、玄関の電気を消して、真っ暗な廊下を進む。慣れた手つきでスイッチを見つけ、リビングの灯りをつけた。食卓テーブルには今日も美味しそうな料理が並べてあった。
 コートをハンガーにかけ、手洗いとうがいを済ませると、アスカは溜め息混じりで食卓テーブルにつく。椅子に腰を下ろした瞬間、どっと疲れが押し寄せた。
食卓テーブルに視線を落とし、思わず頬が緩む。今日は和食だった。鮭の西京漬け焼きと小松菜のおひたし、味噌汁の横にはレンジで温めてのメモが置いてあった。アスカは席を立つ気にはなれず、冷えた味噌汁に口をつける。それはそれで悪くはないな、と思いながら、お椀を置き、おひたしに醤油をかけ始めた。

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