小説「サークル○サークル」01-75. 「動揺」

 結婚が上手くいってなければ、浮気くらいしたくなる。意識しているのか、無意識なのか、その違いはあるにせよ、浮気をしたいと思うことに男女間の差異はほとんどないのだろう。新しい刺激が欲しい、パートナーより素敵な相手がいて心惹かれるなど、浮気なんて、恋に落ちるのと同じくらい単純で、星の数ほど理由があるに違いない。
 けれど、結婚しているのに浮気に走る、となってくると、恋に落ちるのと話は別だ。理性はどこへ行ったのか、という問題がある。しかし、そもそも色恋に理性を求めること自体がナンセンスな気もしていた。そして、シンゴは考える。アスカの浮気を肯定したくはない。浮気をしそうな状況なら今すぐにでも止めたい。だけど、今ここでそんなことを口にしても、火に油を注ぐようなものかもしれないとも思っていた。反対されれば、余計に浮気をしたくなるかもしれない。アスカは本当に自分の気持ちに気が付いていないのに、気付くきっかけを自分が与えてしまうかもしれない。だったら――自分が変われば良いのだ、とシンゴは思った。もう一度、自分がアスカを振り向かせればいい。離れてしまった気持ちをまた自分に向ければいいんだと思った。シンゴにはそれが何よりも安全で手っ取り早いように思えた。幸いにも最近会話が成立するようになってきている。今日だって、あんなにたくさん話せたではないか。きっと険悪な一時期よりも今の方が状況は幾分もマシになっている。そう思っていた。

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