小説「サークル○サークル」01-52. 「動揺」

「乾杯!」
 シンゴが言うと、アスカは静かにシンゴのグラスに自分のグラスを当てた。グラスのぶつかり合う高い音が静かなリビングに反響する。
「ねぇ、最近、仕事はどう? 順調に進んでる?」
 ビールをおいしそうに飲んだ後、シンゴはアスカに訊いた。アスカはビールを飲むのを止めて、首を傾げた。
「まあまあね」
「今、どんな仕事してるの?」
「女性からの依頼で、旦那と不倫相手を別れさせるっていう内容の仕事。いつもと変わらないよ。ただ……」
「ただ……?」
 鸚鵡返しに問うシンゴにアスカは口籠る。何か言いづらいことがあるのかとシンゴは急に不安になった。基本的に守秘義務厳守の別れさせ屋という仕事柄、アスカは仕事内容を他言することはない。けれど、シンゴにだけは別だった。彼は誰かに知った情報を漏らすわけでもなかったし、時折、アスカが思いもつかなかった方法を提案してくることもある。そういったメリットがあったので、アスカはシンゴと付き合うようになってから、シンゴにだけ話すのが習慣になっていた。最近はめっきり2人の会話も減ってしまい、仕事の話をすることもなかったけれど、アルコールが入ってる所為か、はたまた習慣のなせるわざか、アスカは今までと同じようにシンゴに今回の依頼内容について説明を始めた。

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