小説「サークル○サークル」 01-43. 「作戦」

 アスカはベッドの上で大きく伸びをすると、隣でまだ寝ているシンゴに目をやった。静かに寝息を立て、丸まるように眠っている自分の夫を見て、溜め息をつく。
 昔はこんな姿を見るだけで、嬉しくなったものだ。隣に自分の愛する人が寝ている、という事実だけでどうしてあんなにも嬉しかったのか、今の自分には到底理解することなど出来ない。あの頃の気持ちと今の気持ちの落差にアスカはもう一度溜め息をついた。
 彼女はベッドから出て、ひんやりとしたフローリングに足をつけた時、ふと昨日のヒサシのことを思い出した。選ばれた言葉、眼鏡のブリッジを押し上げるキレイな指、スマートな振る舞い、どれをとっても、胸をときめかせるには十分だった。今、自分の隣で寝息を立てている男とは雲泥の差だ。
 アスカはまた出そうになった溜め息を奥歯で噛み殺した。

 今日はバーでの仕事は休みだったので、アスカは事務所の椅子に座り、いつものように机の上に足を乗っけながら、書類に目を通していた。左手には書類、右手には煙草を持ち、白い煙を事務所に充満させている。
「別件は上手くいってるみたいねー……」
 煙草を灰皿に置き、紅茶の入ったカップに持ち替えると、アスカは紅茶を一口すすった。書類を机に置こうとした時、突然事務所のドアがノックされた。

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