小説「サークル○サークル」01-3. 「依頼」

「どうぞ、召し上がって下さい」
 アスカは紅茶に手をつけようとしないマキコに言った。彼女はそんなアスカを遠慮がちに見る。
「あの……ミルクってありますか?」
「ごめんなさい。ミルクは用意してないの。この紅茶はストレートで飲んだ方がおいしいから、大丈夫よ」
「……」
 マキコにとっては、そういう問題ではない。マキコは口をつぐみ、砂糖を大量に入れると、紅茶に口をつけた。
「あの……それで、依頼は受けていただけるのでしょうか?」
「えぇ。受けること自体に問題ないわ。ただ金額の折り合いがつけば、といったところかしら」
「お金ならあります! パートで貯めたお金がありますから」
 真剣な目をして言うマキコに「失礼」と言って、アスカは煙草に火をつけた。
 たかがパートでいくらのお金があるって言うんだか……。
 アスカは内心そう思ったものの、口には出さず、煙草の煙を吐き出した。
「結構、かかるわよ?」
「それは承知の上です! 300万、用意しました」
「300万!?」
 パートで貯めたと言われ、アスカは50万、多くて100万程度だろうと思っていたので、心底驚いた。
「だから、お願いします! どうか、主人とあの女を別れさせて下さい!」
「……わかったわ。この依頼、正式に引き受けさせてもらうわね」
 アスカは300万という大金に思わず顔がにやけそうになるのを必死で堪えながら、神妙な面持ちで言った。

Facebook にシェア
GREE にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`evernote` not found]
[`yahoo` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


dummy dummy dummy