小説「サークル○サークル」01-25. 「作戦」

次々に入ってくる客に挨拶をしながらも、アスカの神経はヒサシたちに向けられ続けていた。薄暗い店内の中では、ついつい行動が大胆になりがちだ。ヒサシは何の躊躇いもなく、女の太腿と太腿の間に右手を滑り込ませた。女は少し困ったような顔をして、ヒサシを見ている。きっとその少し困った顔がヒサシにはたまらないのだろう。ヒサシの口角がほんの少し上がったことをアスカは見逃さなかった。
――バカな男……。
アスカはヒサシの行動に半ば呆れながら、ドリンクが出来上がるのを待った。マスターに呼ばれ、オーダーのドリンクとお通しを受け取ると、アスカはヒサシたちの元へと向かう。
「お待たせ致しました。ジントニックとピーチフィズ、お通しのスープになります」
アスカは笑顔を浮かべて、2人の前にオーダーの品とお通しを並べた。ヒサシはアスカのことなどお構いなしに、女の太腿に手を伸ばしたまま、何やら熱心に話している。女の方は少し冷静で、アスカの声に顔を上げ、軽く会釈した。若干、太腿に置かれたヒサシの手を迷惑そうに感じているようにも見える。
不倫を始めてまだ日数が経ってないか、今日が不倫初日ってところかしら……。アスカは2人を観察しながら、そう結論付けた。

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