小説「サークル○サークル」01-23. 「作戦」

 アスカは返事をして、マスターの元へと行く。何か小言を言われるのかと、憂鬱な表情を浮かべそうになるのを隠し、アスカは顔を上げた。
「あそこに座った男性のことなんだけど」
 マスターはそう前置きをして、小声でアスカに説明し始める。
「連れてくる女性はほぼ毎回違うから、男性と仲良くなって喋ることがあっても、相手の女性のことにだけは触れないようにね」
「はい……」
 アスカにとって、ある程度予想のつく話だったが、それでもそれなりの衝撃はあった。マキコは気が付いていないだけで、ヒサシの浮気相手は相当数いるようだ。
「ごめん、戻っていいよ」
 マスターはそう言うと、カクテルを作り始める。アスカは再びヒサシたちの前にオーダーを取るために向かった。
「ご注文はお決まりでしょうか」
 アスカの言葉に2人は顔を上げる。女の大きな目とアスカは目が合った。潤んだ二重の目には長い睫が規則的に並び、ヒサシを見る目は熱っぽい。明らかに上司と部下という関係ではないであろうことは、容易に想像がついた。
「決まった?」
 ヒサシは女に顔を近付けて問う。そこまで近付く必要性なんてないだろう、とアスカは思いつつ、オーダーを待った。

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