小説「サークル○サークル」01-2. 「依頼」

 アスカはやかんに水を入れると、強火にかける。今時、ポットを使わないなんて珍しい、と思いながら、マキコはソファに腰を下ろした。
 お湯を沸かしている間、アスカはティーポットにティーリーフを入れる。何事にも大した興味を示さないアスカだったが、紅茶にだけはこだわりがあった。キッチンの引き出しには、珍しい紅茶がいくつもストックされ、気分や来客者によって、味を変える。客であろうと、敬語をほとんど使わない無神経なところはあったが、相手によって紅茶の味を変えるなどという細やかな気遣いをする一面も彼女は持ち合わせていた。
やかんのけたたましい笛の音が事務所に鳴り響く。やかんはせわしなく、お湯か沸いたことを知らせ続けた。アスカは慌てるそぶりもなく、のんびりとした動作で火を止めると、ティーポットにお湯を注ぐ。かぐわしい紅茶の匂いが事務所に広がった。アスカはしっかり3分待って、ティーカップに紅茶を淹れた。
 トレイには、ソーサの上に乗った紅茶の入ったティーカップと角砂糖、それから皿の上にはアスカが昨日買っておいたスコーンが乗せられていた。
「お待たせしました」
 アスカは言うと、マキコの前に紅茶を置く。全てを置き終わると、彼女はマキコの向かいのソファに腰を下ろした。

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