小説「サークル○サークル」01-258. 「加速」

シンゴが食卓に来て、アスカは微笑んだ。
「お待たせ」
「いい匂いがしてたから、お腹空いちゃったよ」
シンゴも心とは裏腹に微笑んだ。
アスカには訊きたいことが山ほどあった。けれど、今、それを口に出すことは出来ない。
シンゴは「おいしいね」と言って、肉じゃがを口に運ぶ。
アスカは何も気が付いていない。それがシンゴにとっては遣る瀬無かった。
「仕事はどうなの? 順調?」
前にも訊いたな、と思いながら、シンゴは口にする。
「順調よ。相変わらず。毎朝、カフェに通ってる。あともう一度くらい食事に行けば、もっと彼女とターゲットに近づけるんじゃないかなぁ」
アスカはそう言うと、味噌汁に手を伸ばした。
「じゃあ、そろそろ、今回の案件は片付きそう」
「そうね。時間的な制約もあるし、そろそろ終わらせないとまずいわね」
「早く今回の仕事が終わるといいね」
「頑張るわ」
アスカの微笑みを見て、シンゴはそれ以上何も言わなかった。
アスカに色々訊くのはこの案件が終わってからでいい、とシンゴは思っていた。それまでに自分がやらなければならないことはたった一つだけだった。

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