小説「サークル○サークル」01-15. 「作戦」

アスカはクローゼットの中から、背中の開いた少し露出度の高い白のニットを取り出す。彼女の唯一の魅力と言っても過言ではないのが、うなじの綺麗さだった。女として、誇れるものがこの部分だけしかないということに、若干うんざりしながらも、アスカはその武器を使うことにした。鏡の前で髪を簡単にアップにする。少し後れ毛が気になったが、きっちりしすぎない方が、かえって相手の油断を誘えていいことを彼女は知っていた。
ボトムにはスカートではなく、ラインストーンのついたジーパンをチョイスする。ミニスカートというコーディネートも一瞬頭を過ったけれど、それはやめた。あまり甘い感じのファッションにしてしまうと、男に媚びているような気がして、嫌だったのだ。男に媚びることは、彼女自身のポリシーに反する。
 アスカは手早く着替えると、ブランド品のトートバッグに普段使っているバッグの中身を丸ごと入れ替え、履歴書も一緒に入れた。
「じゃあ、行ってくるわ」
 アスカは脱いだ服を脱衣所に持っていく途中でシンゴに言う。
「うん。いってらっしゃい。帰り遅くなるなら、気を付けてね」
「私はいつでも気を付けてるわよ。それじゃあね」
 アスカはシンゴの方を振り向きもせずに、出て行った。そんなアスカの後ろ姿をシンゴはただぼんやりと眺めていた。玄関のドアは空しく閉まり、残響だけが彼の耳に残った。

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