小説「サークル○サークル」01-149. 「加速」

 ヒサシが女を連れてくることはいつものことなのに、今日は心がざわざわした。あれが依頼主であるマキコが言っていた女に十中八九間違いないと思った。けれど、事実かどうかはわからない。
 どうにかして、女の情報を聞き出さなければ、とアスカは思った。顔を覚えることはアスカにとって、簡単だった。名前さえわかれば、どうにでもなる。その後は素性を押さえて、接触するだけだ。どこかで偶然を装い出会い、浮気相手の女とも親しくなれれば、より一層、別れさせやすくなる。一番いいのは、女に別の男を差し向けることだったが、他の所員は別件で手一杯だった。
 ここは自分がやるしかないか、とアスカが納得した時、タイミング良く、マスターが出来上がったドリンクをアスカに手渡した。
「お待たせ致しました」
 いつものようにアスカは笑顔を向ける。
「ありがとうございます」
 媚びるわけでもなく、自然に女はアスカからドリンクを受け取った。
 今までヒサシが連れて来たどの女よりも愛想がいいな、とアスカは思った。お高く留まっているわけでも、自分の美しさに胡坐をかいているわけでもない。そういう素直さにヒサシが惹かれたことは一目瞭然だった。

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