小説「サークル○サークル」01-106. 「加速」

「おにぎりは気にしないで下さい。タダでもらってきたものですから。鮭とたらことツナマヨどれがいいですか?」
「じゃあ、鮭で」
「はい、どうぞ」
 ユウキはがさがさとビニール袋から鮭のおにぎりを取り出すと、シンゴに手渡した。続いて、自分のたらこおにぎりも取り出すと、包装を慣れた手つき取り外した。
「ありがとう、いただきます」
 シンゴもユウキに少し遅れて、おにぎりの包装を外し始める。
「それにしても、こうやって、コンビニ以外で会えるのって新鮮ですよね」
「確かにそうだね。生まれて初めてだよ。店で知り合った店員さんとご飯一緒に食べるの」
「オレも初めてです。しかも、憧れの作家さんと一緒なんて」
 ユウキが嬉しそうにおにぎりにかぶりつくのを見ながら、シンゴは不思議な気持ちになった。売れなくなり、書店にさえ、過去の作品が数冊しか置かれなくなった自分のことをこんなにも憧れているのだ。隣で楽しそうに喋る彼を見ていると、このままではいけない、と思った。作家としてやるべきことをしていないのではないか、とシンゴは胸の奥が痛むのを感じていた。

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