「サシアイ」13話

果たして、照らし出されたダイニングテーブル上の酒瓶の中には、正体不明の肉片が沈んでいる。それが何の肉なのか、どこで入手したものなのか、問い質してみる気にはとてもなれなかった。いや、軽い嘔吐感がこみ上げていたので、出来なかったというのが正しいかもしれない。
「野良犬でもと思ったんだけど……。
 なんというか、飼い犬を間違える可能性を鑑みると、ひと様に迷惑をかけるのは良くないかな、と思ってね」
淡々と答える槇村は、笑っているような、悲しんでいるような、奇妙な表情を浮かべていた。その場にへたり込んだ俺の顔を覗いてくる。
「さあ、ここまでやったんだ━僕の勝ちだよね?」
そう言って詰め寄る槇村の瞳には、狂気の陰りが見て取れた。そして槇村の報告を鑑みれば、恐らく俺の瞳にも同種のものが宿りつつあるのだろう。
まずい。この流れはまずい。
負けたと言え━このまま付き合えば、俺も槇村も……。
胸中、冷静に叫ぶ俺がいる一方、自分だけが置いていかれる恐怖、それを完全に払拭する好機だと囁く何者かもいた。
また同じスタートラインに立つために避けては通れない、そんな啓示が痺れた頭蓋に鳴り響く。
やがて、俺の唇は、別の意思を持ったかの様に蠢き、細く震える声を漏らした。
「常識の範疇だな……」

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