小説「サークル○サークル」01-323. 「加速」

「彼に限って、そんなことってあるんでしょうか……」
 レナはやけに冷静だった。不倫をやめると決めてから、いろんなことが客観的に見られるようになってきたのだろう。きっとヒサシの良いところも悪いところも的確に判断出来るようになっているに違いない。
「どんな人だって、大切な人を失くす喪失感は経験したくないものよ」
「……」
 アスカの言葉にレナは黙った。アスカの言っていることが一理あると思ったのか、自分の考えがまとまらないのかはわからない。ただ少なくとも、アスカの発言でレナがアスカを怪しむということはなさそうだった。勿論、レナがヒサシに会えば、今後の展開は変わってくる可能性がある。ヒサシからレナに自分の存在をバラされる可能性はあるのだ。
 どうすれば……。
 そこまで考えて、シンゴの顔が浮かんだ。シンゴを頼れば、何か良いアイデアをもらえるかもしれない。けれど、今のシンゴを頼るのは何だか申し訳ないような気がしていた。
 シンゴだって、仕事で忙しい。そんな時に、毎回、自分の仕事の相談をされたら、きっとうんざりしてしまうだろう。
 ここは自分で切り抜けるしかない、とアスカは思った。

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