小説「サークル○サークル」01-293. 「加速」

縋られれば鬱陶しくも思うだろうが、あっさり受け入れられてしまったら、その呆気なさに心は乱されるに違いない。
シンゴにはほんの少しだけそんな打算もあった。
悩み、苦しめばいい――。
ほんの、ほんの少しだけ、そんなことを思っていた。
シンゴは自分の考えの底意地の悪さに苦笑してしまいそうになる。
けれど、結婚という契約をした上で、その契約を破ることが一体どういうことなのか、今一度、アスカには考えて欲しかった。あまりにも無責任すぎる、となじりたい気持ちもあった。
別れてからの恋愛は自由だ。どうせ、恋人を作るなら、自分と別れてからにしてくれればいいのに、とも思った。そう思うものの、アスカはきっと今じゃないとダメなの、と言うのだろう、ということがシンゴには容易に想像がついてもいた。
もし結婚さえしていなければ、今ほど、腹も立たなければショックも受けなかっただろう。結婚さえしていなければ、別れるのは簡単だ。面倒な書類の手続きもいらなければ、財産分与で揉めることもない。

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