「サシアイ」16話

実は、ひとつだけ、確実に相手を凌駕し得る方法が見つかっている。恐らくは槇村もそれにたどり着いたはずのものだ。
(あとは、先に実行できれば……)
そう、実行さえできればすれば勝利は確実だった。
しかし、痛飲した大量の酒も今度ばかりは頼りにならず、結局、俺は躊躇してしまう。
この時点で、少なくとも俺の勝利は無くなった━。

どうしてこうなった? 何故、止められなかった? 槇村のマンションへの道すがら、答えが出るはずも無い自問を繰り返した。
水は自然が生み出したもの、酒は神が分け与えたものという━槇村の知識と美貌は、神様の招聘に適うものだったのかもしれない。
これから目の当たりにするであろうそれを夢想し、俺は神々しさに胸打たれた。同格を望むなど、土台無理な存在だったのだ。
俺の来訪を予測していたように、槇村のマンションのドアには鍵が掛かっていなかった。俺も迷うことなくリビングへと向かう。
すべてを確認するため、照明を点けた。
「クロサイの、間に合ったのか……」
果たして等身大の酒瓶の中、勝利を確信した微笑みを死相に浮かべ、全裸の槇村が浸かっていた。

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