小説「サークル○サークル」01-72. 「動揺」

 アスカはシンゴの言葉に少し引っ掛かりを覚えながらも食事を完食し、席を立った。食器を片付けようとすると、シンゴが「いいから、お風呂に入ってきなよ」と言ったので、彼女はシンゴの言葉に甘えてそのまま風呂場へと直行する。
 シンゴは食器を片付けながら、さっきのアスカの目を思い出していた。明らかにあの目は恋する女の目だ。いくら売れていなくても作家は作家だ。人間観察はどんな場所でもどんな時でも欠かさない。些細な人の表情を見逃したりするわけがなかった。それが自分の妻であれば尚更だ。
 シンゴは食器を洗いながら、どうするべきか悩んでいた。「君は恋をしているね」と言えば、アスカのことだから、「そんなことないわ」と言うに決まっている。「恋をしているの?」と訊いても同じことだ。どうすればいいのか――それは、彼女が自覚するような出来事が起こる場面を押さえるしかない。即ち、浮気の現場を押さえるということだ。
 僕は一体何を考えているのだろう、とそこまで考えてシンゴは思った。

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