小説「サークル○サークル」01-60. 「動揺」

「依頼者がターゲットのケータイを見たか、ターゲットの仕事先を覗きに行ったかのどちらかだろうね」
「そんな、まさか」
 アスカはマキコとの会話を思い出す。依頼された時にそんな話は聞かなかったし、何よりマキコが夫のケータイを見るような浅はかな女には見えなかった。けれど、もし夫に浮気の疑いがあったとしたら、どんな利口な女でもケータイを盗み見るようなまねをするのだろうか。
「嫉妬に狂えば、まさか、と思うようなことを人間は簡単にしてしまうと思うけど」
「嫉妬に狂うなんてこと、あるかしら?」
「その人、仕事は?」
「パートをしてるって言ってたわ。パートで依頼料を貯めたみたい」
「パートをした理由が依頼料の為だったとして、それまでは専業主婦だったとしたら?」
「何が言いたいのよ」
 アスカはシンゴの言っている意味がわからず、もどかしさからついむっとして強い口調になる。
「専業主婦だとしたら、家事をして、ターゲットの帰りを待つ毎日の繰り返しだろう? だけど、ターゲットは浮気をして、帰りが遅い。そうなれば、寂しさは募るばかりだと思わないかい?」
「そりゃあ、そうかもしれないけど……」
 アスカは思考を巡らせたが、シンゴの言葉に反論する良い理由を見つけることが出来なかった。

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