小説「サークル○サークル」01-59. 「動揺」

「周到さ故ってどういうことよ?」
 アスカはいつもと違って、若干だが輝いて見える夫に向かって言った。
「浮気がバレないように完璧に振る舞うだろう? けれど、その完璧さはある種の不自然な空気を生んでしまう。そして、その空気を女性は見事に見破るんだ」
「よく言う女の勘ってやつ?」
「そうだよ。嘘には必ずどこかに綻びがある。その綻びはとても小さくて、普通じゃ気付けない。特にこれが男女逆転の場合は尚更。男性にはちょっとした空気の違いを見破るような鋭さは備わっていないからね。けれど、女性にはその鋭さが生まれつき備わっている。だから、女性は男性の浮気にすぐ気が付けるんじゃないかな」
 今までの明確な推理とは打って変わって、憶測の域を出ないシンゴの発言に、アスカはいささか訝しげな表情を浮かべたが、敢えて口にはしなかった。シンゴの言わんとしていることは、女のアスカにはいくつも心当たりがあったからだ。その代わり、別の疑問を口にする。
「でも、どうして、浮気相手まで誰なのかがわかるのよ」
「それは簡単さ」
 シンゴは得意げな顔をする。アスカは一瞬イラっとしたが、表に出さずにシンゴの話の続きを待った。

Facebook にシェア
GREE にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`evernote` not found]
[`yahoo` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


dummy dummy dummy