小説「サークル○サークル」01-58. 「動揺」

「食事が冷めちゃうよ」
「そうね……」
 アスカはどこか上の空で返事をする。彼女はありったけの想像力と論理力で思考を巡らせたが、シンゴのスピードには敵わなかった。こういう時、悔しいけれど、本当にシンゴのことをすごいと思う。この人の妻で良かったと思う唯一の瞬間だと言っても、過言ではなかった。
「一人で毎晩飲みに行くのって、おかしいと思われないかしら?」
「それが習慣だと言えばいい。それにそう言われたって、一人で行っていた、と言えば、それまでだよ。人は嘘をつく時、全てを嘘で固めるとついついボロが出てしまう。だけど、ピンポイントで嘘をつけば、その嘘はバレにくくなる。だから、一人で行っていた、という嘘をつくくらいなんてことないと僕は思うけど」
「なるほどね……」
 アスカは頷いたものの、はっとした。だとしたら、どうして、マキコはヒサシの浮気に気が付いたというのだろう。
「でも、そんなに周到に嘘がつける賢さがあるのに、どうして、依頼者に浮気がバレたのかしら?」
「そういうタイプはホテルの領収書を持って帰るなんてヘマはしないだろうし、バレるとすればその周到さえ故だろうね」
 シンゴは微笑む。その微笑みにアスカは一瞬ぞくりとした。

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