小説「サークル○サークル」01-57. 「動揺」

「ターゲットはきっと君の話を家に帰ってから、依頼者にしてると思うよ」
「えっ」
「だって、それが自然だと思わない? ターゲットは毎晩飲んで帰ってくるわけだろう? そうなれば、どこで誰と飲んでいたの、という話になる。そうした時、バーなら一人で飲んでいたって、おかしくなんてないし、いちいち会社の同僚や上司と飲んでいた、なんて嘘はつかなくていいからね。その証拠にバーで話した君の話をする。そして、依頼者は別れさせ屋である君と話しているんだということに気が付く。だけど、別れさせ屋だと言っても、相手は女性だ。そこに嫉妬心が芽生えないと言い切れる?」
「それは……」
「ターゲットは頭の良い人だと思うよ。浮気現場にバーを選ぶなんて。一緒に連れてきた女性の話は依頼者にはせずに、バーで話した君の話だけをする。この時点でターゲットは何一つ嘘をついていないんだからね」
 シンゴはスープを口に運んだ。少し生ぬるくなっていたが、かぼちゃの味が口の中いっぱいに広がることに幸せを感じた。もう一口飲もうとして、アスカを見る。アスカは難しい顔をして、パエリアを見つめていた。

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