小説「サークル○サークル」 01-47.「動揺」

 マキコが来てから、1週間が経った。けれど、アスカは今日もバーにいる。店内の薄暗さも静かに流れるBGMも何もかもがいつもと同じだった。アスカはオーダーされたドリンクやフードを運びながら、空いた時間でグラスを拭く。オーダーが落ち着いたおかげで、漸く3つ目のグラスに手を伸ばすことが出来た。
 マキコに調査をやめていいと言われてから、アスカはバーでの仕事をどうするか悩んだ。しかし、働き始めて数日で唐突に辞められるわけなどなかったし、何より調査の停止がマキコの一時の気の迷いの可能性であることも否めなかった。そうなると、しばらくの間はバーで働かざるを得ない、というのが彼女の出した結論だった。
 相変わらず、ヒサシは毎回違う女を連れてバーにやって来た。今日、連れてきた女は黒髪のストレートヘアが印象的なエキゾチック美人だった。毎日毎日違う女を連れてくる、そんな光景を見ていたアスカは大学の食堂の日替わりメニューをなんとなく思い出していた。それくらい、見事な日替わり振りだったのだ。
 勿論、代金を支払うのはヒサシだ。決して、毎日の出費として、財布に優しい金額ではなかったが、当の本人は涼しい顔をして支払いを済ませて帰っていく。一体、どれだけ稼いでいるんだろう、とアスカはそんなヒサシを見送りながら少し羨ましくなった。

Facebook にシェア
GREE にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`evernote` not found]
[`yahoo` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


dummy dummy dummy