小説「サークル○サークル」 01-45. 「作戦」

 しばらくすると、アスカはクッキーと一緒に紅茶をマキコの前へと置いた。
「今日はどのようなご用件でしょうか」
 予想はついていたが、アスカは取り敢えず訊いた。
「主人のことなんですが……」
 マキコは口を開き、申し訳なさそうに言った。
「もう別れさせなくても結構です」
 きっぱりと言い放ったマキコの言葉にアスカは自分の耳を疑った。
「今、なんて……?」
 我ながらマヌケな返答だと思ったが、それ以外に適当な言葉も思いつかなかった。
「ですから、主人と不倫相手を別れさせなくて、結構だと言ったんです」
 マキコは表情一つ変えることなく、もう一度はっきりと言った。
「どうしてですか? こちらの対応に何か不満でも?」
「そういうわけではありません……。ただ別れさせたところで、主人が私のところに戻ってくるとは、とても思えなくて」
 マキコは俯いて、紅茶を見つめると、そっと手を伸ばして、カップに口をつけた。
 沈黙が落ちる。
 アスカはマキコの言葉の真意を探るのに精一杯だった。

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