小説「サークル○サークル」 01-42. 「作戦」

 ヒサシはジントニックの入ったグラスに口をつけて、彼女の後ろ姿を目で追った。
 然して、美人というわけではないが、気になる女だな、とふと思って、ヒサシはまた苦笑した。最近の自分の行動に少し笑ってしまったのだ。軽率な行動、などと言ったら、声をかけている女に失礼だと思う反面、その言葉が一番しっくりくるような気がしていた。女なら誰でもいいのか、と時々自問してしまうくらい、最近のヒサシは手当たり次第、いいなと思った女に声をかけていた。勿論、仕事に支障が出ないような女にしか声はかけない。会社に押しかけてきたり、浮気をネタにゆすってきたりする女は避けたかった。自分に本気になる女は、妻と愛人の2人もいれば十分だと考えていた。本気――そこまで考えて、ヒサシは深く溜め息をついた。2人を同時に愛することは出来ても、2人の本気を同時に受け止めることに、最近いささか疲れ気味であることは違いなかった。そんな疲れから手当たり次第に声をかけているのかもしれない、と思ったところで、ヒサシは考えるのをやめた。いくら考えたって、今の彼には答えなどわからなかったからだ。
 ヒサシは徐に携帯電話をポケットから取り出した。着信もなければ、メールの受信もない。溜め息をついて、再びポケットに携帯電話をしまった。
 その後、彼がいくら待っても、待ち人は来なかった。

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