小説「サークル○サークル」01-9. 「依頼」

「煙草が切れちゃったから仕事を切り上げたの……って、いけない。煙草買うの忘れちゃったわ」
「煙草なら、買っておいたよ。そろそろ、切れる頃だろうと思ってね」
「あら、気が利くじゃない」
「君と一体何年付き合ってると思うんだよ」
「10年くらいかしら?」
「そうだね。結婚する前から数えるとそのくらいだろうね」
 アスカは荷物をソファの横に置くと、手洗いとうがいをする為に洗面所へと向かう。その間にシンゴはキッチンで料理を温め直していた。
 食卓テーブルに着くと、アスカの前には次々とアツアツの料理が並べられた。
「おいしそう!」
「僕が作ったんだから、おいしいに決まってるよ」
 シンゴは得意げに言った。こんなことで胸を張っている場合ではないということに、彼は気が付いていない。彼の本職は作家である。その仕事が上手くいかないから、普段はほとんど主夫業に専念しているのだが、そのことに対して危機感がこれっぽっちも感じられなかった。それがアスカの悩みのタネでもある。
「いただきます」と言って、アスカは料理に箸をつけた。チーズグラタンと様々な野菜の入ったサラダに、パンプキンスープ、フランスパンはご丁寧にガーリックトーストにされていた。
 無言で次々と口に運んでいくアスカを嬉しそうに見ながら、シンゴは向かいの席に腰をかけた。

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