小説「サークル○サークル」01-40. 「作戦」

 いけすかないヤツだとばかり思っていた。けれど、悪いヤツ、というわけではないようだ――アスカは2度目の接触でヒサシに対してそう感じていた。
 頭の回転も良ければ、受け答えにも嫌味がない。外見はスマートで、声のトーンもちょうど良い。女が放っておかない理由も自分が接してみて、想像していた以上によくわかった。
「お待たせ致しました」
 アスカはジントニックをヒサシの前に置く。
「一つ気になることがあるんだけど、訊いてもいいかな?」
 ヒサシは遠慮がちに言った。今までの態度とは違って、アスカも一瞬驚いた。
「はい。どうぞ」
「嫌だったら答えなくていいんだけど――」ヒサシはテーブルに視線を落とし、しばし考えた後、「どうして、ここで働くことにしたの?」と言った。
「仕事を探していて……。たまたま、このバーに何度か来たことがあって、いいお店だなって思ってたんです」
「そうか……」
 ヒサシの問いにアスカは一瞬ドキリとした。自分の素性がバレているのかと思ったのだ。自分が別れさせ屋だとバレた時点で、この依頼は失敗ということになる。失敗したというだけならまだ良いが、別れさせ屋に依頼したことがバレて、依頼者とターゲットが離婚なんてことになったら大問題だ。それだけは何としてでも避けなければならない。
 アスカはヒサシの次の言葉を息を飲んで待っていた。

Facebook にシェア
GREE にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`evernote` not found]
[`yahoo` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


dummy dummy dummy