小説「サークル○サークル」01-38. 「作戦」

「少し、話し相手になってもらえないかな」
 ヒサシの突然の申し出にアスカは心底驚いた。仕事中でさっきから忙しく、カウンター内を行ったり来たりしているバーの店員相手に、こんなことをさらっと言ってのけるのだ。どんなシチュエーションでもきっと物怖じしないで、女に声をかけられるのだろう。
「すみません。マスターに聞いてきますね」
 アスカは新人らしく、そうヒサシに答えると、マスターに話し相手になっていても大丈夫かと訊いた。すると、意外にもマスターからはあっさりとOKがもらえて、彼女は拍子抜けしてしまった。
「お待たせしました。大丈夫です」
 アスカはヒサシの元に戻って来るなり言った。
「良かった」
「もしかして、お約束の方が来られないんですか?」
 アスカはさっきから時計を気にしていたヒサシに言った。
「鋭いね。その通りだよ」
「時計を気にされていたから……」
「格好悪いところを見られていたようだね」
「そんなことないですよ。待ち合わせの時間にやってこなければ、誰だって時間が気になるものです」
「フラれちゃったかな……」
 ヒサシはそう言って、酒を煽った。

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