小説「サークル○サークル」01-24. 「作戦」

「私、これがいい」
 女はメニューを指差した。アスカからは何の飲み物を指差したのかまでは確認することが出来なかった。
 薄暗い店内でもキレイに手入れされた女のネイルは妙に目立っていた。営業職なのだろう。派手なデザインにはしていないものの、ネイルサロンに行っていることは明らかだった。こういった女としての気遣いは、マキコにあっただろうか。一見、些細なことに見えるけれど、そういった細やかな部分で男は相手に女を感じることをアスカは知っていた。思わず、彼女は自分のネイルに視線を落とす。辛うじて、甘皮の処理はしていたけれど、お世辞にもキレイな指先だとは言えなかった。飲食業に潜り込んでいるので、マニキュアは塗れないにしても、手入れのしようはいくらでもある。ふいに女としての自分の劣化具合を感じて、アスカは恥ずかしくなった。
「すみません」
 俯くアスカにヒサシは声をかける。
「はい。お決まりですか?」
 アスカはヒサシに笑顔を向ける。
「ジントニックとピーチフィズを」
「かしこまりました」
 アスカはヒサシに一礼すると、マスターにオーダーを伝えた。

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