小説「サークル○サークル」01-418. 「加速」

沈黙は落ちたまま、ヒサシもレナも視線をテーブルの上に彷徨わせていた。隣にいるユウキの顔までは見えない。
アスカはさっさとマキコとその不倫相手が出来るだけ自分たちのいる席から遠くの席に座り、こちらに気が付かないでいてくれることを願った。
アスカの視線が動いて、レナやヒサシが気が付かないように、じっと前を見据える。
しかし、アスカの願いも空しく、ヒサシは視線を動かし、そして、呆気にとられたような表情を浮かべた。
ああ、見つけてしまったか……、アスカは思い、溜め息をつく。
ヒサシの顔が見る見るうちに青ざめていった。
自分が浮気をしているというのに、妻の浮気を見たら青ざめるなんて、随分と身勝手だな、とアスカは思う。けれど、同時に気の毒でもあった。
アスカはヒサシの異変に気が付かない振りをして、もう冷めてしまった紅茶に口をつけた。
ヒサシの様子に気が付いて、レナとユウキもヒサシの視線の先に目を遣った。そこにはマキコとその不倫相手が仲睦まじく、手を繋ぎ、楽しそうに会話している姿があった。レナとユウキはなぜヒサシがじっと見据えているのか、最初はわからなかったが、すぐに理解した。あれはヒサシの奥さんだ――。

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