小説「サークル○サークル」01-415. 「加速」

「私はあなたと離れることが怖かったの。奥さんに申し訳ないって気持ちだって、ずっと消えることはなかった」
「……」
「そんな気持ち、私が持っていたことだって、ヒサシさんは知らなかったでしょ?」
レナの言葉にヒサシは罰が悪そうな顔をする。レナの言っていることが図星なのだろう。
ヒサシは自分の意のままに、相手を誘導するのが上手いし、女心だってよくわかっている方だろう。けれど、肝心な部分まで、相手のことを見てはいないのだ。
「黙ってるってことは、図星でしょ?」
いつものレナとは明らかに違った。
アスカの前では、弱気な面を見せていたけれど、ヒサシの前でこんなにもはっきりと発言するのだ。
だからこそ、レナの意思の強さをアスカは感じていた。
アスカはただ傍観しながら、ことの行く末を見守っていた。
ヒサシが一言「別れる」と言えば、この話は全て終わる。
けれど、ヒサシはその一言を決して口にはしない。
それはとても狡いことだ。きっとヒサシは気付きながらも、その狡さを心の中で肯定している。

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