小説「サークル○サークル」01-405. 「加速」」

 アスカはそんなユウキの態度に不安を募らせる。
 相手はヒサシだ。感情の起伏を見せるのは、最低限にしていた方がいい。
 ヒサシは感情的になるユウキを見ながら、淡々と続けた。
「夫婦関係が冷めきっていて、離婚をしたいと思っているけれど、離婚を出来ずにいるのなら、相手が不倫をしてくれることは幸せなことだと思いますよ。夫婦間に特に大きな問題もないのにただ冷めきっているだけでは、相手に離婚を拒否されれば、離婚すること自体が難しいでしょう。世間体もありますしね。裁判になったとしても、離婚出来る確率はとても低い。でも、相手が不倫してさえくれれば、あっさりと離婚出来る上に慰謝料までもらえるんですから」
「でも、大抵の場合、不幸せでしょう?」
「大抵の場合は、というより、バレた場合は、では?」
 ヒサシの言葉にユウキはぐうの音も出ないようだった。
「バレなければなかったことと同じ、という言葉はあなたも聞いたことがあるでしょう。不倫されている立場で不倫を不幸せだと感じるのは、不倫されているという事実を知ってしまった、その時だけだと私は思います」
 ヒサシの言葉には妙な説得力があった。

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