小説「サークル○サークル」01-375. 「加速」

 アスカはアールグレイに口をつける。
 レナは「わかりました」とつぶやくように答えた。
「今、彼を呼べる?」
「はい」
 レナはそう言うと、メールを打ち始めた。
 やはり、電話はしづらいのだろう。
 すぐに返信が来たようで、レナの携帯電話が振動する。
「今から来るそうです」
 レナは携帯電話の画面に視線を落としたまま言った。
「ありがとう」
 アスカはレナに向かって微笑んだ。しかし、レナの表情は強張っている。
「どうして、そんなにユウキ君に会うのを嫌がるの?」
「ずっと不倫を反対されてましたし……」
「でも、その不倫をやめる為の協力をお願いするのよ。彼は喜ぶんじゃない?」
「喜ぶと思います。でも、私は彼に対して、いい感情はあまり抱けないというか……」
「そういうことね……」
 なるほど、と思いながら、アスカは再びアールグレイに口をつける。
 自分のことを思って不倫をやめるように言ってくれていたという良心はわかってはいても、不倫を続けていた時に煩わしいと思ってしまった気持ちが彼女の中にまだ残っているのだろう。
 よくあることだわ、とアスカは思いながら、カップをソーサーの上に置いた。

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