小説「サークル○サークル」01-354. 「加速」

 アスカが帰宅すると、夕飯のいい匂いが漂っていた。
 玄関の廊下からリビングに続くドアを開けると、肉を焼いているシンゴの姿があった。
「おかえり。そろそろ、帰ってくる頃だと思ったんだ」
 シンゴは真剣な顔で肉をトングで引っ繰り返しながら言った。
「ただいま。はい、頼まれてたアイスクリーム」
「ありがとう。今日、コンビニに行ったら、売ってなくってさ」
「もう在庫限りだったみたい」
「期間限定商品だからね」
「あるだけ買って来たから」
「あ、すごい量。ありがとう」
 シンゴはちらっと視線を肉から食卓テーブルに置かれたアイスの入った袋にやると、嬉しそうに口の端をほころばせた。
 アスカは手洗いとうがいの為に洗面所へ行くと、丁寧に手洗いとうがいをした。そして、鏡の前で軽く髪を整えた。
 少し疲れた自分の顔に溜め息がこぼれそうになったけれど、敢えてアスカは鏡に向かって微笑んでみる。
 ほんの少しだけ、元気になれたような気がした。アスカはシンゴの待つリビングへと向かった。

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