小説「サークル○サークル」01-21. 「作戦」

 マスターから店内のどこに何が置いてあるかの説明を受け、アスカはメニュー表を渡された。「うちはお酒の種類が多いから、大変だと思うけど、少しずつ覚えていってくれればいいから」マスターはメニュー表を渡す時に、あたかも人の良さそうなことをにこやかに言った。けれど、アスカはこれが口先だけだということに気が付いていた。面接の時の対応からもわかるように、マスターは表面を繕うタイプだ。この手のタイプは、表向きは良いことをいうものの、内心は真逆のことを考えていることが多い。ずっとこの店に求人募集の紙が貼られていたことからもそれは明らかだった。きっとマスターのちょっとした意地の悪い言葉に辟易して、今までの店員も辞めていってしまったのだろう。
アスカは過去にカフェで働いていたことはあったが、同じ飲食業と言っても、バーで取り扱うドリンクの種類は、カフェに比べてかなり多い。ドリンクメニューを覚えることだけで、アスカは根を上げそうになっていた。
 仕事とは言え、面倒な店に来てしまったな、とアスカはメニュー表とにらめっこしながら、内心溜め息をついた。

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