小説「サークル○サークル」01-339. 「加速」

一体、マキコはなんでそんな嘘をついたんだろう……。
アスカはつい考え込みそうになるけれど、目の前にヒサシがいるので、心に留めるだけにした。
「お子さんがいれば、また少しは環境が変わってたんじゃないかしら?」
「そうだと信じたいね。でも、子どもがいなくて、少しほっとしているんだ」
「どうして?」
「だって、子どもがいたら、離婚を躊躇うだろう? 周りにも離婚を考えている奴らは何人もいるけど、結局、子どものことがネックになって出来ないでいるんだ。子どもは可愛いとか、養育費を払うのが難しいとかね」
「そもそも、離婚しないような相手を選べば良かったんじゃないの?」
アスカは仕事を忘れて、思ったことを口にする。言ってから、しまった、と思った。
「あははは。君の言う通りだよ。相手を選んだのは自分だからね。全ての責任は俺にある。でも、人間は間違うものだろう? 俺はうっかり間違えてしまったんだよ」
ヒサシは自嘲するように言った。

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