小説「サークル○サークル」01-325. 「加速」

アスカはテーブルでレナが戻ってくるのを待ちながら、ケータイのメールボックスを見た。そこには珍しくシンゴからのメールがあった。
“明日打ち合わせで帰りが遅くなるのを伝え忘れたのでメールしました”と簡素な文面が表示されて、アスカはなんだかほっとした。
自分の仕事や置かれている状況は、明らかに今殺伐としているように思える。そんな時、夫の何気ない日常メールに、自分の居場所を見たような気がしたのだ。
アスカは“わかりました。お仕事頑張ってね”と返すと、ケータイをテーブルの上に置く。きっとシンゴから返信はないだろう。必要なこと以外、彼はメールをしないことをアスカは知っている。けれど、こんな時はくだらない内容でもいいから、シンゴからのメールが欲しかった。今、アスカは今回の依頼が成功するか、失敗するかの瀬戸際に立たされているのだ。誰かに弱音を吐いていいわけでもなかったし、吐けるような状況でもなかった。ただ気を紛らわす為だけのシンゴからのメールが欲しかった。

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