小説「サークル○サークル」01-291. 「加速」

「……それがどうかした?」
シンゴは視線を遠くにいるアスカから動かさずに言う。
「いえ、シンゴさんの敵と俺の敵は一緒なんだなって思って」
敵? シンゴはその言葉に違和感を覚えた。
確かにアスカが浮気をしていることは許せるようなことじゃない。けれど、相手の男を敵だと思ったことはなかった。浮気をしている妻を責めたい衝動に駆られることはあっても、相手の男に対して、憎悪に似た感情もなければ、責め立てたいとも全く思わなかった。
理由は自分でもよくわからない。ただアスカに裏切られた、という事実がシンゴをひどく傷つけていた。
「シンゴさん……?」
黙りこくるシンゴにユウキは不安そうな表情を見せる。
「ああ、ごめん。つい考えごとを」
「そうですよね……。今から、浮気相手に会おうっていうんですから、平常心でいられないですよね……」
「それは君も同じじゃないのか?」
「ええ、だからこそ、シンゴさんの気持ちがわかるんです」
ユウキは苦悩に満ちた顔で俯いた。

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