小説「サークル○サークル」01-278. 「加速」

「原因はきっとそれだよ。睡眠不足で疲れが抜けきらないんじゃないかな。今回の案件が終わったら、そうだな……。温泉でも行こうか」
 勇気を振り絞って、シンゴは言った。
「……そうね」
 少し間があって、アスカは答える。アスカの表情は曇っていて、全く嬉しそうではない。その顔を見て、シンゴは「ああ、そうだよな」と思った。好きでもない旦那に温泉旅行を持ちかけられたら、鬱陶しいとは思っても嬉しいとは思えないだろう。
 シンゴは言わなければ良かった、と思った。けれど、もう後の祭りだ。
「指はもう大丈夫?」
 シンゴは怒りと悲しさで気が狂いそうだったけれど、平静を装ってアスカに訊いた。
「うん、平気」
「じゃあ、僕は仕事に戻るね。後片付けはそのままにしていていいよ。あとで僕がやっておくから」
「……うん……」
 アスカは元気のない様子で頷いた。
 シンゴはアスカの方を見ることもなく、立ち上がる。彼女のことを直視出来る程、シンゴは強くなかった。

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