小説「サークル○サークル」01-273. 「加速」

手当を終えると、アスカはぼんやりとシンゴのことを目で追っていた。
「どうしたの?」
シンゴは救急箱を片付けて戻って来るなり問う。
「シンゴ、ごめん」
アスカの顔が苦痛に歪む。
シンゴはとうとう来たか、と思った。きっとアスカは浮気を告白し、別れを告げて来るに違いない。一瞬のうちにシンゴは覚悟する。黙ったまま、アスカ次の言葉を待った。
「シンゴ、私……」
アスカは涙目でシンゴを見上げる。シンゴは座るタイミングを失い、立ったまま、アスカを見下ろした。
「……」
本当は「言わなくていい」とアスカに言いたいと思ったが、ここでそんなことを言ってしまったら、アスカが別れを告げるタイミングを先延ばしにするだけだ。シンゴは開きそうになった口をつぐんだ。
「……なに?」
シンゴは代わりに優しく訊いた。
「……私、奥さんとして失格だよね」
「……」
アスカの言葉にシンゴは何も言えなかった。ここで肯定することも否定することも早すぎると感じたのだ。

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