小説「サークル○サークル」01-237. 「加速」

「どうしたの? 大丈夫?」
 アスカは少し驚いたようにレナを心配する。これも計算のうちだった。
「大丈夫です……。すみません」
 レナはバッグからハンカチを取り出し、溢れそうな涙を拭った。
 アスカはそんなレナを見ながら、人のモノを取ろうとしている女が、この程度のことで泣くなよ、と内心思ったが、おくびにも出さずにレナを心配する振りをした。
「実は私……」
 レナはそこまで言って、口を閉ざす。ヒサシとの不倫を言い出すべきか、どうか迷っているようだった。
 アスカはじっと待つ。ここで話を促すのも不自然だったし、アスカの想定している方向とは別の方向に話が展開しても困る。ここは黙って、レナが自発的に話すのを待つのが得策だった。
 一体、何分過ぎただろう。
 レナは思い詰めた表情で俯き、口をへの字に結んでいる。
 沈黙のあまりの長さに煙草を吸いたくなったが、アスカはぐっと堪えた。
 今が勝負どころだ。アスカは煙草の誘惑に抗いながら、黙りこくっているレナをただじっと見据えていた。

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